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大阪家庭裁判所 昭和52年(家)2094号 審判

本籍 奈良県

住所 大阪府

申立人 戸川アヤ(仮名)

国籍 朝鮮

最後の住所 大阪府

被相続人 朴正一(仮名)

主文

被相続人の相続財産二八万四、五四〇円及びこれに対する銀行の普通預金利息を全部申立人に与える。

理由

第一申立の要旨

被相続人は昭和三八年六月一七日死亡したが相続人のあることが明らかでない。申立人は被相続人の内縁の妻として、大正一三年以来被相続人と生活を共にしたもので特別縁故者にあたる。被相続人の遺産は、別紙目録(略)記載の土地だけであるが、相続債権者はないので、これを申立人に分与する旨の審判を求める。

第二調査の結果、当裁判所が認定した事実

一  被相続人は国籍を朝鮮としていたものであるが昭和三八年六月一七日死亡した。

二  別紙目録(略)記載土地には被相続人を所有者とする所有権移転登記がなされていた。

三  被相続人の外国人登録による国籍の属する国における住所又は居所である忠清北道清州郡○○町○○に本籍がなく、被相続人には相続人のあることが明らかでなかつたので、当裁判所は申立人の子である戸川正治の請求によつて、昭和四八年九月二八日相続財産管理人に弁護士井野口有市を選任し、同年一〇月五日付官報でその旨を公告した。

四  上記管理人は昭和四九年六月二五日付官報で、一切の相続債権者及び受遺者に対し、該公告掲載の翌日から二か月以内に請求の申出をされたい旨を公告したが、これに対し、誰も申出るものはいなかつた。

五  当裁判所は、なお相続人のあることが明らかでなかつたので、上記管理人の請求により、同年一〇月一六日付官報で、相続権を主張する者は昭和五〇年五月三一日までに、当裁判所に申し出るようにと公告したのに、誰も申し出るものはいなかつた。

六  申立人は昭和五〇年七月二二日、当裁判所に対し、本件申立をした。

七  ところが、上記管理人は昭和五一年一〇月二一日、宮田徳二なる者から別紙目録(略)記載宅地は昭和二五年三月末日頃、被相続人から、同地上建物と共に代金六万五、〇〇〇円で買受け、昭和二六年四月五日その代金の支払も完了したもので、上記宅地は被相続人の遺産ではなく、宮田徳二の所有に属するものである旨の申出を受けた。

八上記管理人は、宮田徳二が別紙目録(略)記載宅地の登記権利証を所持し、かつ固定資産税を支払つていることなどから、宮田徳二の申出を採用するのほかなしと判断し、宮田徳二の代理人である弁護士末永善久と再三交渉を重ねた結果当裁判所の許可を得て、宮田徳二から四〇万円の支払いを受けるのと引換に、別紙目録記載宅地について同人に対し、所有権移転登記手続をなす旨の契約を締結した。

九  上記管理人は上記契約に基づいて昭和五二年七月七日宮田徳二から金四〇万円を受領し、同年七月一二日同人に対し、所有権移転登記手続を完了した。

一〇  当裁判所は、昭和五二年七月二七日上記管理人に対し、被相続人の相続財産管理に対する報酬として金一〇万円を付与する旨の審判をした。

一一  上記管理人は上記示談金四〇万円から官報公告掲載料等の費用計金一万五、四六〇円及び上記報酬金一〇万円を差引いた残金二八万四、五四〇円を株式会社三菱銀行天満支店に普通預金して保管している。上記金額以外に被相続人の遺産はない。

一二  被相続人は大正一二年頃韓国から日本に来て、大正一三年頃、申立人と内縁関係を結び奈良県で同棲を始め、同人らの間に昭和四年五月一一日正治が、昭和八年七月二九日正全が、昭和一三年四月一五日正通が各出生した、被相続人と申立人とは、昭和二五年頃被相続人の肩書最後の住所に移つて同棲を続け、被相続人は同所で昭和三八年六月一七日死亡したものである。

第三当裁判所の判断

一  被相続人は朝鮮人であり、法例二五条によれば相続は、被相続人の本国法による旨定められている。然しながら元来法例二五条にいう相続とは、被相続人と何らかの人的関係を有する自然人に対し、相続財産を承継さすことを意味し、本件のように通常の相続人が存在しない場合の遺産の帰属の問題は、もはや同条の適用範囲に入らず、相続財産ないし、これに代るものの所在地法によらしめるべきであると解する。上記示談金四〇万円は遺産に代るものである。そうすると被相続人の本国が何処であるかを問わず、被相続人の遺産に代る上記示談金は日本に存在しているのであるから、本件は日本民法によるべきものである。

二  上記認定事実によれば、申立人は民法九五八条の三の被相続人と特別の縁故のあつた者に該当するものであり、上記示談金四〇万円から、相続財産管理人の報酬等を差引いた金二八万四、五四〇円及びこれに対する銀行の普通預金利息は全部申立人に付与するを相当とする。

三  よつて主文のとおり審判する。

(家事審判官 常安政夫)

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